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ビジネスモデルの未来

農業をより身近に。そして稼げる農家を増やす。アグリメディアが目指す農業におけるイノベーションとは

株式会社アグリメディア

都市に住む人の余暇利用として家庭菜園が人気だ。しかし、農業になじみのない人にとっては、いざ始めるにはハードルが高い。そんななか、手ぶらで出かけて無農薬野菜が作れる都市型のサポート付きレンタル市民農園「シェア畑」が人気を集めている。

「お客様のなかで『シェア畑』は、フィットネスジムと同じ『健康のための余暇利用』という位置づけです。入会者も、フィットネスの商圏といわれる3km圏内の方が圧倒的に多いのが特徴です」と語るのは「シェア畑」を運営する株式会社アグリメディアの諸藤(もろふじ)貴志代表取締役社長だ。

エリアや畑の広さによって価格帯は多少異なるものの、基本料金は月額で約5,000円からと手軽で、苗や種、たい肥、農具や資材など、野菜栽培に必要なものは全て用意され、水道、トイレや休憩スペースもある。栽培に詳しい「菜園アドバイザー」が週4~6日待機し、無農薬栽培のアドバイスや畑の管理を行うので、予備知識などが少なくても失敗せずに楽しみやすい。また、育成状況を専用のスマホアプリを通じて確認したり、自分の野菜の成長を記録していくといった楽しみ方もある。もちろん、収穫の達成感は農業ならではだ。多くの利用者にとって、収穫した野菜は「1個いくら」とお金に換算するものではなく、「体験の付加価値」となる。そうした意味でも「体験型」のビジネスだということがうかがえる。

農業を活性化させ、効率化する「場」作り

ものをみんなで所有する「シェアリング」が新しい価値観として浸透した流れにも乗り、「シェア畑」はサービス開始から約5年で利用者数1万人を突破。現在は首都圏72カ所、関西2カ所で運営している。「政令指定都市を中心とした都市部に増やし、200カ所にしていく」と諸藤氏は語る。

諸藤氏は、前職の大手不動産会社で数百億円規模の不動産開発事業を数多く手掛けるなどして活躍してきた。株式会社エス・エム・エス創業者で、同社の東証1部上場をけん引した実兄、諸藤周平氏の影響もあり、20代半ばで一度独立起業を検討したものの、本業のやりがいも大きく、踏み切れなかったという。

「起業を30歳と目標設定し、解決することが大きな社会的インパクトになる課題を探すうちに、農業に行きつきました」と語る諸藤氏らは、「農業を活性化・効率化する優れたプラットフォーム(場)の提供」にビジネスの焦点を定めた。社会的インパクトを残しうる課題として、「遊休農地」の可能性を追求することを考えたのだ。

「シェア畑」は「遊休農地」の有効活用事業としての側面を持つ。農業を行うには、実は資格が必要だ。農家台帳なるものが存在し、そこに載っている人しか耕作できないことになっている。ただ、地主から土地を借りて、こっそりと耕作をしている実情もある。また、農地法による制限で駐車場にしたり家を建てたりすることが難しい点や、農地のままにしておけば税金が安くなることなどから放置されている土地が多い。これが「遊休農地」だ。ここに勝機を見いだした諸藤氏は、2011年にアグリメディアを創業。首都近郊の300もの畑や地主の元を回って課題を吸い上げ、「シェア畑」を翌年ローンチさせた。

複雑な法制度と「前例がない」という門前払いをかいくぐり、自治体との信頼関係も徐々に築いて「遊休農地」を次々に「シェア畑」に変えていった。そのなかで手腕を発揮したのは、地元・福岡で農家を継いでいた友人であり、共同創業者の岡村浩嗣氏だった。農業の現場を知り尽くした岡村氏が、農家の心をつかむ提案をできたからこそ「シェア畑」の数は一気に増加したのだ。

他社が参入を試みても、複雑な法制度と農園管理の難しさの二重苦によって行き詰まり、結局アグリメディアに土地管理を依頼するケースもある。まさに「プラットフォーム」作りの手始めとしてふさわしい事業でもあった。

協業によるデータ活用をビジネスチャンスに

2010年ごろからスマートフォンの爆発的な普及が始まっているが、「シェア畑」の問い合わせや入会も、今では半数以上がWeb経由となった。現在エンジニアは4名体制だが「年内には倍に増やす予定」だという。規模は小さいが使い勝手のいいサービスを作り上げることで、IoTを通じて取得したデータを活用するなど伸びしろは大きそうだ。

例えば、「シェア畑」利用者向けのスマートフォンアプリは、現在4,500世帯に利用されている。アプリ登録の利用者が72カ所で同時期に、同じ種子をまき、野菜を育てる。生育の細かな記録が取れる仕組みのなかで、気温や日照、降水などのデータを併せて累積させれば、これは野菜栽培の現場で、非常に貴重なデータになっていくと見られている。高齢化が進む専業農家がIT、IoTを積極活用している事例は決して多いとはいえない。こうしたデータの蓄積を都市に住む人が率先して行ってくれるようになれば、新たなビジネスチャンスが創出されると考えている。

種子メーカー、IoTツールを手掛けるメーカーなど、農業には関連企業が多い。「Win-Winの関係が築ける企業とは積極的に協力していく方針で、データの提供も行っていきたい」と諸藤氏。採用による増員と協業の両輪で、スピーディーに結果を出していくつもりだ。

2019年のビジョンは「農業の課題解決につながる事業創出」という次のステップだ。2017年4月には農業分野の人材事業、インターネット活用事業を展開する株式会社アグリ・コミュニティを100%子会社化するなど、さらなるプラットフォーム化に向けても進み出している。

「スター農家」が増えれば農業は元気になる

2011年の創業から2年間は、諸藤氏と岡村氏以外はインターンだけという少数のメンバーで会社を運営していたというアグリメディア。現在、本社勤務の従業員は約80名。「シェア畑」ではシニアが中心の「菜園アドバイザー」も積極的にアルバイト採用しており、現場スタッフは約200名いる。

本社勤務で農業経験者はそれほど多くなく、前職はIT系や金融など従業員のバックグラウンドはさまざまだ。専門知識は入社してから身に付けてもらえればいいという考え方だが、現在の農業に課題を感じ「自分の専門分野で、農業を変えたい」と前のめりな意欲を持つ人を求めている。

「農業というと『都会に疲れたから、のんびりしたい』といったイメージがまだあるようですが、うちに必要なのは何よりも成長志向です。そのうえで柔軟さを備えた、素直な人が望ましいですね」

「シェア畑」は都市生活者の「土に触れたい」という根源的な欲求を満たし、余暇の場になると同時に、農業の指南を楽しみながらサイドビジネスにもなる「菜園アドバイザー」というシニアの雇用も生み出した。利用者がスキルアップし「セミプロ」の農業者になっていく可能性も大いにある。

一方で、ビジネスとしての農家は、いまだに時給平均500円の世界といわれる。土作りから種まき、育生、収穫といったサイクルが年単位でしか経験できず、PDCAを高速で回しづらい点は否めない。自然災害によるリスクもある。そうした障害を乗り越えて、農業全体がより活性化するには「稼げる農家」を作ることが大切だと、諸藤氏は考えている。

「時給にして現在の3倍~4倍の金額を稼げる『スター農家』が出てくれば、農業の世界は大きく変わると思います。そんな未来を作り上げていきたいですね。長年の経験や勘といった、自然との対話で得られる農業センスを、ITやIoTを活用することで誰もが得られる時代になれば、現場はもっと効率的になるでしょう。みんなの頭のなかに、稼げる職種の代表格として農家が思い浮かぶ、そんな時代を作るプラットフォームを構築していければと思います」

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