探そう、まだ見ぬ未来を。

人工知能の未来

人工知能でニュースにスピードと質の革命を。
報道機関向けソリューション「Newsdeck」

株式会社Spectee 村上健治郎

災害や事件、事故、テロなどは、日々、世界中で絶えることなく起こっている。それらを取り上げ、取材し、編集して「ニュース」という形で伝えるのが、テレビ局や新聞社などの報道メディアだ。しかし、インターネットに象徴されるメディアの多様化の中で、ニュースはこれまで以上に1分1秒の速報性を競い合う一方、より正しく公正な、質の高い内容が求められている。こうした課題に、AI(人工知能)を活用することで、新しいイノベーションを起こそうとしているのが、株式会社Specteeだ。「報道が1分早ければ、100万人の命が助かる」をモットーに、保守的な報道メディアに変革を起こそうとする同社の取り組みについて、村上健治郎代表取締役CEOに話を聞いた。

SNS上の画像や動画を解析し、報道機関にいち早く提供

――御社の提供する報道機関向けのソリューションである「Newsdeck」は、独自開発の高精度AIによる動画や画像データの収集と自然言語解析でマスコミ向け情報配信を行うという、これまでにないものです。まずは、そのスキームについてご解説ください。

「Newsdeck」では、クラウド上で動くリアルタイム画像・動画解析エンジンである「Spectee AI」が、TwitterやYouTube、Instagram、Facebookといった世界中のソーシャルメディアにアップされた画像や動画を、24時間モニタリングしながら自動的に解析します。これを、「事故」や「火災」「災害」「テロ」などといったさまざまなカテゴリーに分類し、それらの情報をテレビ局等の報道各社にいち早く提供するというものです。

現在、テレビ局や新聞社など、30社以上の報道機関からご利用いただいており、「Newsdeck」から提供した動画は、毎日数本は、なんらかの報道機関で使われています。2016年の夏は、台風関連の水害が多かったこともあり、かなり多くのメディアで「Newsdeck」から提供した映像が使われていました。

――既存の報道機関にとって、「Newsdeck」を利用することのメリットはどのような点にあるでしょう?

最大のメリットは、より早い報道を可能にするということです。ソーシャルメディアの普及によって、新聞やテレビなどの従来型の報道では、読者や視聴者からすると「もう知っているよ」という出来事が少なくありません。事件や事故について、テレビのニュースや新聞記事で知らされる以前に、Twitterで広く情報が伝えられるというのは、すでによくある話です。そこで、既存の報道、ニュース作りの流れの中に、私たちのサービスが入ることで、よりスピーディーな報道が可能になります。

さらに、「Newsdeck」による報道のスピード化は、ニュースの質の向上に貢献できることも大きなメリットです。近年、テレビ局などでは、Web取材班のようなものを作り、ネットからの情報収集に力を入れています。しかし、本来それは報道機関が力を注ぐべき部分の仕事ではありません。ネット上の情報収集のような仕事は私たちが行い、報道機関の皆さんには、本来掘り下げるべき取材活動に専念していただくことで、報道の質がより高まると考えています。

マシンラーニングをより細分化・高速化した独自のAI

――「Newsdeck」の核心となるのは、御社が独自に開発した人工知能「Spectee AI」ということですが、その特徴についてお聞かせください。

「Spectee AI」の特徴は、SNS上に無数にある画像や動画を瞬時に素早く解析する点にあります。従来、こうしたビッグデータの解析は、テキストによるキーワード解析が主流でした。しかし、ソーシャルメディア上では、ユーザーの視点は圧倒的に画像や動画に集まり、投稿される情報そのものも、文字情報よりも画像や動画のほうが多いのです。そこで、私たちはAIによる画像認識に注目し、マシンラーニングによってその精度を上げ、たとえば「火事」であれば、その画像や動画が火事であるということをAIが瞬時に認識し、カテゴライズできるシステムを作りました。

さらに、こうしたデータの多くには、位置情報がついていますので、場所を特定することができます。また、位置情報のついていない画像や動画でも、前後のコメントにあるテキストなどを解析することで、そこに地名に関連する情報などがあれば、ある程度の場所が特定できます。このようにして、カテゴリーごとに分類された画像や動画に場所の情報を加えることで、クライアントである報道機関に、ニュースの材料を効果的に提供できるのです。

――「Spectee AI」の開発に当たって、どのような課題やハードルを乗り越えてきたのでしょうか?

現時点でも技術的な課題は数多くあるのですが、開発に当たっての最大の課題は、AIにその事象をどう認識させるかという根本的な部分でした。マシンラーニングにおいては、学習の素材が必要になります。しかし、事件や事故というのは、何が起こるか分からないものです。それをどのように判断させるかというところが、技術的に高いハードルでした。この課題を解決するために、従来のマシンラーニングの仕組みではなく、さらに細分化し、より学習がスピーディーになるようなものを作りました。この部分は、私たちの特許になっています。

AIやSNSの活用で、報道に新たなイノベーションを

――現状でベンチマークとしている企業やライバル社はあるでしょうか?

国内ではスマートニュースやグノシーなど、「ニュースをどのようにユーザーに届けるか」という部分において、新しいベンチャーが出てきています。しかし、私たちのように、「ニュースをどのように作っていくか」というアプローチをしているベンチャーは、まだないのではないかと思います。こうした点で、私たちが報道というジャンルで活動している範囲内では、今のところ脅威となるようなライバルは見当たりません。しかし、AIという大きなジャンルで考えると、報道という場から一歩出れば猛烈な競争があり、そこで勝ち続けていくのは、大変なことだと思います。

――「Spectee AI」や「Newsdeck」は、今後の報道やニュースにどんなインパクトを与えていくのでしょう?

これからさらにAIが進化していくなかで重要なのは、それをどのようにビジネスに生かしていくかという点にあります。私たちでいえば、それをニュースや報道という世界で、どのように武器にしていくかということですね。

1980年に、アメリカでCNNが開局した際、既存のメディアはその頭文字をとって、「チキン・ヌードル・ニュース」と揶揄(やゆ)していました。お手軽で安っぽいニュースという意味でしょう。しかし、それから36年が過ぎた2016年の今、CNNは世界のニュース報道のトップに立っていると言っても過言ではありません。CNNが行ったのは、ケーブルテレビによる24時間のニュース放送という、それまでの報道メディアにはなかったイノベーションでした。

しかしそれ以降、現在まで次の変革は起きていません。そこで私たちは、AIの力やソーシャルネットワークの力などを生かし、新しいイノベーションを、日本の報道メディアから起こしていきたいと考えています。

――報道やニュースという点では、企業としての社会的使命も問われますね。

かつての阪神大震災や東日本大震災で私たちが学んだことの一つは、「報道が1分早ければ、100万人の命が助かる」ということです。ベンチャーとして報道やニュースにかかわる私たちは、これを大きなミッションと考え、チームのメンバーで共有しています。そのために、AIを生かした報道のIT化によって、報道のスピードと正確性を、さらに上げていきたいと思います。

■プロフィール
株式会社Spectee
http://www.spectee.co.jp
代表取締役CEO 村上健治郎

1974年、東京都出身。ネバダ大学リノ校理学部物理学科卒業後、インターネットコンテンツ配信会社にて、オンラインゲームの企画・マーケティングなどを担当。さらに外資系IT企業に転職し、パートナービジネスの構築などに携わる。会社員として勤務しつつ、2009年、早稲田大学大学院商学研究科に入学。2011年、同科卒業の後に退職。翌年、現在の株式会社Specteeの前身となるベンチャーを起業。2013年、ロケーションベースの匿名型ローカルSNS「Colotown」を立ち上げる。翌年には、世界中のあらゆる場所で起きている出来事をリアルタイムで配信するアプリ「Spectee」を開発。「Spectee AI」を生かした報道機関向けソリューションである「Newsdeck」で注目を集めている。

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