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人工知能の未来

人工知能分野にさらなる可能性をもたらすアルゴリズムサプライヤーとは

株式会社 PKSHA Technology

デジタル技術は基礎の時代を終え、いよいよ応用の時代へ

「2016年、我々は情報革命本格期の入り口にいると思います。これまでインターネットの世界は私たちの住むリアルな世界とほぼ切り離された存在でしたが、それらが密接に絡み合い始めています。あらゆる現象がデータとして刻印・解析され、デジタルデバイスを通じて消費者の体験を変えています。マクロな変化は牛歩のように進むため、日々の体感では気づきにくいですが、我々消費者の体験や生活は日々インテリジェントなものに進化しており、我々はまさにその不可逆なメガトレンドの渦中にいると思います」

そう語るのは、株式会社PKSHA Technologyの上野山勝也代表取締役だ。かつてITの進化はインターネットの普及と共にあったが、これからはインターネットに接続されていない領域との融合のフェーズに入り始めている。IoTを軸とした各種センサーの普及は現実世界の挙動を数値化し、収集することでデジタル化する。一方で、VR/ARのように人間が電子空間に没入していくという流れも生まれつつある。

しかし、私たちが想像する未来の姿と、現実との間にはまだまだ大きな乖離が存在している。上野山氏は「2015年からの約10年間は、基礎研究の時代は終わり、応用の時代」と位置付けている。基礎技術はすでに完成されている。では、それをどう活用するのか。その一翼を担うのが、PKSHA Technologyだ。

「我々は企業に自然言語処理や機械学習、深層学習と呼ばれる領域のアルゴリズムを提供しています。アルゴリズムサプライヤーという名称を用いています」

上野山氏が同社を起業したきっかけは、デジタル技術が社会活用されていないことへの危機感からだった。デジタル技術で実現できることは数多くあるにもかかわらず、そのポテンシャルが社会に生かされていないと感じたことが始まりだった。その理由も明確だった。「デジタル技術が希少材だった時代のソリューションベンダーは数多く存在していますが、ネット・AI時代のソリューションに特化した会社がこの世に存在していなかったのです。それならば、デジタル系の人たちでそういう会社を作ったほうがいいとシンプルに考え、起業に至りました」

現在は領域特化型の画像認識エンジン「Vertical Vision API」にはじまり、チャット対応・FAQ対応の自動化ソリューションを実現した対話エンジン「BEDORE(べドア)」、ログなどの時系列データを応用したWeb接客ツール「ecコンシェル」、機械学習を用いたCRMソリューション「CELLOR(セラー)」、過去履歴を用いた顧客行動の予測エンジン「PKSHA Predictor」など、さまざまなプロダクトを展開。その結果、PKSHA Technologyは「日本テクノロジー Fast50」にて第2位を獲得するなど急成長を遂げている。その成長の核となっているのは、高度なアルゴリズムを主体とした幅広いプロダクトの数々だ。

今回はなかでも特に伸びているという、深層学習領域の画像認識エンジン「Vertical Vision API」と、日本語における対話エンジン「BEDORE」の2点について紹介していただいた。

無人店舗は、技術的には実現可能に

Vertical Vision APIは、領域特化型の画像認識エンジンで、医療機器やカメラなどのイメージングデバイスへの組み込みを想定している。「撮るだけのカメラを認識技術を使い知能化し、ユーザー体験を変えていきたい」と上野山氏は語る。この技術が確立されれば、先日大きな話題となった「Amazon Go」のコンセプトムービーに近い、レジを必要としない無人店舗も形にできるという。入店時にスマートフォンでIDを照会し、店内の棚から商品を買い物かごに入れるたびにカメラがその状況を認識して、情報を処理する。かごに入った品物を店外に持ち出せば、自動で精算も完了しているという形だ。購入者の動線や購入履歴が収集・分析できる点に加え、万引防止にも大きな成果が見込める。これらは想定される実用の一例に過ぎないが、同社の画像認識技術は既に実証実験段階にあるという。

「アルゴリズムを商用化するには複数のソフトウエア技術間の擦り合わせ技術が重要です。ここは日本人技術者が比較的得意なのではと思っています。また、企業にとっての大事な論点は、従来からあるソフトウエア活用からアルゴリズム活用へと変わっていくと思います」

これまでのソフトウエア活用を軸としたソリューションの場合、ある特定の目的、用途でしかソリューションは機能しなかった。しかし、これがアルゴリズム活用となると、一つのアルゴリズムでさまざまな分野やサービスに転用することが容易となるわけだ。

上野山氏は続けて「このプロダクトには技術的なチャレンジが2つあります。1つがアルゴリズムの磨き込み。もう1つはアルゴリズムを載せるハードウエア設計」という。通常の店舗内カメラは画像データをサーバーに送る機能さえ持っていればよかった。しかし、このソリューションを実現するためには、カメラにデータを処理するための知能を組み込んだハードウエアを搭載しなければならない。ソフトウエアの開発にとどまらず、アーキテクチャーの設計にもチャレンジしなければならないということだ。

「ハードウエアとソフトウエアでは作る工程が異なります。ハードウエア設計は精密な設計図を描くのに対し、機械学習エンジンはデータを蓄積させてチューニング・試行錯誤を繰り返します。つまり「設計」と「実装」の“軸足”が異なるわけです。この水と油を混ぜるオペレーションを考えねばなりません。それゆえに、製造業では、機械学習的なアプローチがフィットしづらいこともあります」

今後、ソフトウエアの進化に応じた、ハードウエアの設計が課題だと断言する上野山氏。

「ソフトウエアがインテリジェント化することは不可避です。ソフトウエアがあらゆるハードウエアに染み込んで、制御し始める時代がやってくる。そうであれば、ハードウエアのエンジニアも、制御されることを前提にしたハードウエアアーキテクチャーは何か?ということを考えなければなりません。このようなアプローチはまだ多く議論されていません。ソフトウエアに制御されることを前提としたハードウエアアーキテクチャーとは?……これがエンジニアとして近い将来の面白いパラダイムの一つになると思います」

一般化したチャットがビジネスの現場にもたらす変化

BEDOREは人力で行っていたコールセンターのサポート業務の広範囲を代替しうる、チャットスタイルのプロダクトだ。大手コールセンターを運営する事業会社と連携しつつ、事業展開を図っているという。

三井住友銀行がオペレーターの応対業務にIBMの認知型コンピューター「ワトソン」を導入し、業務効率を向上させたことがニュースとして報じられたが、BEDOREは日本語に特化した対話エンジンだ。カスタマーサポート領域で活躍する。特徴はコールセンターに特化させていることにある。位置付けとしては「日本語インターフェースのOS」にあたる。豊かな語彙と表現がある日本語だが、パソコンのトラブル対応など、ユーザーへの回答がほぼ決まっている業務は、対話エンジンで十分に対応可能なレベルまで来ているそうだ。

「こうしたことが実現できるようになった背景には、2012年に深層学習領域にブレークスルーが起こったことと同じぐらい、チャットというインターフェースの普及・ユーザー側の“慣れ”が重要だったと個人的に考えています」と上野山氏は語る。実は対話型チャットの研究は、Googleのキーワード型検索エンジンよりも前に、もっとも研究されていた分野だったという。Googleをはじめとして、欲しい情報にたどり着くためには「検索窓に欲しい情報を入力する(という極めて非人間的なインターフェース)」というスタイルが普及したことにより、対話型チャット分野の研究は一時的に停滞ムードにあった。しかし、2012年に深層学習領域のアルゴリズムが急に進化したことに加え、モバイル端末の浸透とともにLINEとFacebookが普及し、人々の間で対話型のチャットというコミュニケーション手法が一気に拡大したのだ。

「もともとチャットは形こそあれ、オンラインゲームなどでしか使われない特殊なコミュニケーションでした。しかし、2012年ごろからチャットをする人が爆発的に増えてきました。それこそ、数千倍、数万倍になっているはずです。これと2012年の深層学習のブレークスルーが同時期に起こったのは面白い偶然だなと感じています。言語意味理解は技術レベルではまだまだ発展途上ですが、各方面で研究がどんどん進んでおり、さらに進化し続けていくでしょう。どんな質問にも的確に答えてくれる、SFのような世界に到達するまではまだ時間がかかると思いますが、着実に進化していく分野だと思います」

これからのエンジニアに求められるもの

前述の通り、上野山氏は「2015年から2025年までは、すでに発見された技術の応用の時代である」と口にする。「さまざまな専門家のコラボレーション・創意工夫・試行錯誤を通じ、技術要素間のつながり・その応用事例は爆発的に増加しています。そこで個人のキャリア設計として重要になるのは、一つの技術に精通しているだけでなく、他にもう一つの技術についての知見を得ておくことです」

あらゆる要素が結合する可能性を秘めているからこそ、一見関係性のないものであったとしても、何かしらの知見を持っておくことが、強みになる場面が来るという。「時代の変化は早いので、異質を受け入れ、変化を楽しめることが大切では」と笑う。

「機械学習、深層学習技術に興味を持っているソフトウエアのエンジニアは多いと思います。現状のソフトウエアの開発にある種の限界を感じていたり、飽きてしまっていたりする方は、成長意欲が高い方だと思います。世の中の動きに対して、今の仕事だと取り残されてしまうのでは、という危機感を覚えている方は、今こそ動き時なのかもしれませんね」

事実、PKSHA Technologyには「異分野の専門性が高い人と連携して価値を創出したい」という思いを抱えている人たちが集まってきているという。在籍スタッフの内訳を見ても研究者、アルゴリズムエンジニア、ソフトウエアエンジニアといったさまざまな分野のプロフェッショナルファームの経験者がそろっている。おのおの高度な専門性を有した人たちが協業しているのだ。自身のスキルを生かして、世の中に意味がある、インパクトを与えることを熱望する人たちが集まってきているという。

日本が抱える構造課題こそが、新たなビジネスの着想になる

さらなる商用プロダクトの展開を見越して、積極的に中途採用に取り組んでいる同社だが、「採用」というキーワードに対して思うところがあるという。

「AIが人の仕事を奪うという議論がありますが、人が減少する、人を採用できないという議論のほうが大きい気がします。Vertical Vision APIやBEDOREといったプロダクトは、なにも人員を削減させることをゴールにしているのではなく人とソフトウエアの自然な連携を目指しています」

現在、コンビニエンスストアなどでは人件費の圧縮や人手不足のため、仕入れやレジに専任を置けず、スタッフ全員がどんな業務もこなさなければいけないようになっている。コールセンターも同様だ。しかも、人の生活スタイルの変化に対応するため24時間稼働のレスポンスが求められている。人口がますます減少していく未来において、どこまでオートメーション化できるか、減った人口をテクノロジーで補うことができるかが課題となる。つまり、人員不足をマーケットが受容できる構造にすることが不可欠だ。「そこにアルゴリズムが介在する隙間があり、新たなビジネスが創出されるのです」と、上野山氏は語る。

PKSHA Technologyは今後、人手不足で悩む企業や、デバイスを展開している企業と直接連携していくという。人員不足という課題があれば、人を採用することだけが解決策のように思われていた時代があったが、今はそうではない。デジタルが果たせる役割は日々拡大し続けており、新たなアプローチをPKSHA Technologyも模索している。

「私たちは『学習するソフトウエア(アルゴリズム)で世の中を新しく』というメッセージを掲げていますが、その中核を担うのは、当たり前ですが常に人です。“思い”を起点に企業と顧客の関係をより良くする、消費者の体験を新しくするアルゴリズムとは何かを追求することで、世の中に新たな価値を提供したいと考えています。技術領域にこだわらず、柔軟に世の中のためになる技術を追求・選択します。その試行錯誤の先にどんな未来があるのか、楽しみにしています」

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