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人工知能の未来

医療と不動産、異なる2つの世界から見るAIの未来(後編)

株式会社メドレー 沖山翔/株式会社ietty 大浜毅美

医療と不動産、それぞれの分野でチャットボットを活用して注目される、株式会社メドレーの沖山翔氏と株式会社iettyの大浜毅美氏との対談。前編では、それぞれの事業におけるAI活用の現状から、人間とAIの双方が担う役割についての話に及んだ。一方、AIを取り巻く状況として、たとえば経済産業省から、AIやロボットなどの技術革新に何も対応しなければ、「2030年度には国内雇用が735万人減る」との試算が発表されている。こうした懸念について、どのように捉えるべきか? そして目指すべきAIの未来像はどのようなものか? 再びお二人の対談に耳を傾けてみよう。(2016年11月8日 取材)

■株式会社メドレー 医師 沖山翔(写真左)
■株式会社ietty 執行役員CTO 技術本部長 大浜毅美(写真右)

人間には「仕事を生み出す力」がある

沖山:AIやロボットの普及に伴い、人間の仕事がAIに奪われるのではないかという懸念があります。この点について、大浜さんはどのようにお考えですか?

大浜:技術革新によって、一部の仕事が新しいテクノロジーに置き換えられるというのは、これまでも繰り返されてきたことですよね。例えば昔は「タイピスト」というタイプライターを使って文章を印字する職業の人がいましたが、今はもういません。炭鉱でトロッコを引く人もいなくなりました。このように、技術の発展というものは、人間の仕事をなくし、変えていく側面を持っています。

しかし、それでも社会におけるすべての「仕事」がなくなるということは私はないと考えています。人間は、仕事を生み出す力を持っています。これからも次々と新しい仕事が生まれてくるのではないでしょうか。考えてみれば、私のようなプログラマーという仕事をする人は、40年前はいませんでした。対照的に、沖山さんのようなお医者さんはずっと昔からいますね。

沖山:まさに大浜さんのおっしゃる通りだと思います。AIが今ある職業の一部をやってくれるようになると、社会全体としては豊かになっていくはずです。そして誰かが新たに「こんなものが欲しい!」と思えば、そこに仕事が生まれます。AIが100ある欲求のうち60をかなえてくれるものだとしたら、そのあとに欲求が40しか残らないのではなく、新たな60が加わった100の欲求を追い続けてしまうのが人間ではないでしょうか。そういう意味では、AIやロボットの普及によって、人間がすべき仕事が枯渇するということはないと思っています。

AIやロボットに求められる次のブレイクスルー

大浜:私は職業柄、対話型のボットなどについて、「生身の人間同士のようなコミュニケーションのレベルが実現できるのか?」というような質問を時々受けます。しかし私は、現在のディープラーニングやサポートベクターマシンが、それを完全に担えるとは思っていません。何かもうひとつ、別のブレイクスルーが必要だろうと思うのです。

沖山:ブレイクスルーとは、具体的にどういうものをお考えでしょうか?

大浜:それは「正解データを作る」というものです。ご存じのように、AIの機械学習にはある程度の「正解」が検証のために必要になってきます。例えば将棋や囲碁などは、勝ち負けという最終的な答えがありますから、途中の正解データは作りやすい。ところが、私たちのような不動産仲介業には、こうした意味での「正解」というものがありません。そもそも、家や土地を探している人が、相談してくる段階で正解を持っていませんし、住んでみて5年後に「ああ、失敗だった」と思うかもしれません。このように、正解データが本質的に存在しない分野について、機械学習をどう考えていくのかという、次のブレイクスルーが必要です。

沖山:そういう意味では医療も同じような悩みを抱えているかもしれません。採血データや遺伝子データなどを取り込むことにより、IBMの「Watson」のように、人間の医師では判別できなかった病気を発見するなど、より適切な診断ができるようになるのかもしれません。この部分については、「正解」というものがあります。

しかし、その病気には治療法A・B・Cの3つがあり、それぞれにメリットとデメリットが大・中・小とあるなかで、どの組み合わせを選ぶかというようなことについては、答えというものはありません。治療法Aは高額だが副作用が小さい。治療法Bは長期間の投薬が必要だけれども手術は不要。治療法Cは……といった具合になれば、そのなかから受けたい治療法を選択するのは医師ではなく患者さんであり、これは人間だからこそ選択できるのだと思います。

大浜:熱意を持って、あるときはロジカルに、またあるときはエモーショナルに、本当に私は心から、あなたにこの治療が最適だと思っていますよ、ということを伝えられるのは、人間ならではの役割ということですね。

沖山:人間とAI、そして仕事という点では、もう1つ、人間側の価値観とか社会の判断基準といったものも、大きく影響しているところがありますね。現状では、何かについてAIが決断した内容に対し、私も含めて多くの人間はちょっといぶかしい目で見てしまいます。

しかし近い将来、例えば人間の気象予報士とAIの気象予報システムがあって、「AIの予測のほうがよく当たる」「気象予報士のいう降水確率は全然あてにならない!」という事態が続けば、人間側の価値観が少しずつ変わってくるかもしれない。そうなることで、今以上にAIを受け入れられるようになるのではないでしょうか。

大浜:未来を完璧に予測するのは、人間だろうと機械だろうとできないことだといわれていますが、不動産選びというのは、この未来予測の要素が非常に大きい仕事です。その物件がよいものかどうかは、住んでみて3年、5年たってみないと分かりません。住んでいる人も、周りの環境もどんどん変わっていきますから、それを完璧に予測するのは難しいです。

例えば、せっかく眺めのよいマンションを買ったのに、数年後に目の前にビルができて景観が損なわれてしまったとかいうのは、予測しようがないのです。しかし、それではそのマンション購入はどうだったのかと考えると、失敗だったと考える人もいれば、購入時は予測できなかったことだから仕方がないと考える人もいる。問題は、その不動産を紹介したのが人間かAIかで評価が分かれる点。2016年現在であれば、AIが紹介した物件を購入し、失敗したとなれば購入者はすごくAIにがっかりするでしょう。でも、これが30年後にはどうなっているか。そのころには、物件はAIがレコメンドするものを購入するのが当然で、失敗しても仕方ないと諦められる世界になっているかもしれない。

沖山:医療も同様で、結論を保証するとか完全に予想することは決してできません。ですから、その課題に立ち向かうすべは、医療というプロセスを経て納得感を生み出すことなのかなと思っています。「この時点でのベストな選択はこれ以外になく、自分は最善を尽くした」と思えることで、仮に結果が残念なことになったとしても、納得をすることができるかもしれない。そうした意味で、人間にとって何が本当に大切なことなのかという、哲学的な問いにもつながっていきますね。

大浜:少なくとも、今のAIがそのレベルまで行くのは、だいぶ先のことだろうと思います。

情報の非対称を改善することでAI技術は世界を幸福にする

大浜:ここまでお話をしてきて、医療と不動産、一見まったく異なる領域ですが、AIやITへの関わりを通してみると、共通点が多く、アプローチは違っても、目指す世界観は同じなのだと感じました。

沖山:今、AIが統計的に、「この人はこれを選びそうだ」というのを出すのがファーストステップとして、その先に待っているのは、AIがどれだけ納得感を演出できるのかということなのですね。この点は、不動産も医療も共通しているのがよく分かりました。

大浜:私は、不動産というのはC2Cが本質だと思っています。しかし法律の知識とか専門的な手続きなど、どうしても情報の非対称性がありますから、そこを媒介するのが私たちのような仲介会社です。だからこそC2Cという本質を忘れないようにして、そこに向かっていくところに、おそらくこれからの革新的な動きがあるのでしょうし、それを実現していきたいと考えています。

沖山:人間の営みの究極の目標は、「どうすれば人は幸せになれるのか?」ということだと私は考えています。そこで、私のフィールドは医療ですから、その文脈の上で人が幸せになるにはどうしたらよいのかを、これからも考えていきたいです。

大浜さんのお話と同様に、医療においても医師と患者さんの間には大きな情報の非対称性があります。そこで、AIの活用などによって情報を提供することで、その格差を少しでも埋めることができればと思います。場合によっては、これは医療技術の進歩や新薬の開発以上に、この世界の幸福に寄与することなのかもしれません。今日はありがとうございました。

大浜:こちらこそ、ありがとうございました。

■プロフィール
株式会社メドレー
http://www.medley.jp
医師 沖山翔
東京大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターでの臨床研修を経て、救命救急医、船医、離島医(石垣島・波照間島)、ドクターヘリ添乗医、DMAT(災害派遣医療チーム)隊員として勤務。東日本大震災では宮城県石巻市にて被災地医療に従事し、不足する入院施設の新規立ち上げを行う。人工知能(AI)に関心を持ち、医師でありながら人工知能学会にも所属。2015年より株式会社メドレーに参加。

株式会社ietty
https://ietty.co.jp/
執行役員CTO 技術本部長 大浜毅美
横浜国立大学教育学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科修了。日経リサーチにてシステム開発およびブログ分析サービス等の立ち上げに従事。その後、ヤフーのR&Dやグルーポン・ジャパンのBI部門マネージャーを経て、マーケティングアプリケーションズ入社。同社では、執行役員CTOとして開発チームの編成やオフショアラボ開設、新規サービスの立ち上げ等を統括。2016年4月に「ietty」に参画。

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