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人工知能の未来

医療と不動産、異なる2つの世界から見るAIの未来(前編)

株式会社メドレー 沖山翔/株式会社ietty 大浜毅美

人工知能(AI)やロボット技術による世界的なイノベーションは、「第四次産業革命」と呼ばれる。蒸気機関によって始まった第一次産業革命、石油と電気によるテクノロジーが巨大な消費社会を作り上げた第二次産業革命、そしてコンピューターの登場によって始まったのが第三次産業革命である。これら3つの大きなイノベーションに比べ、「インダストリー4.0」とも呼ばれる第四次産業革命の最大の特徴は、人間ではなくAIがシステムを自律的に制御することにある。ここでは、医療と不動産というまったく異なる領域において、チャットボットを取り入れて各業界のイノベーションをリードしている株式会社iettyのCTO兼技術本部長の大浜毅美氏と、医師でありながら株式会社メドレーでも働く沖山翔氏と、それぞれの世界から見たAIが作り出す未来図について、語り合っていただいた。(2016年11月8日 取材)

■株式会社メドレー 医師 沖山翔(写真左)
■株式会社ietty 執行役員CTO 技術本部長 大浜毅美(写真右)

ボットの活用で、「接客」や「情報発信」を

大浜:まずは自己紹介として、私どもの事業内容からお話ししますと、株式会社iettyはオンライン不動産仲介事業として、チャット形の接客サービスを行っています。そもそも、不動産という業界は、オンライン化やIT化がかなり遅れている分野であり、そのために借りる側や買う側の意向が、いささか蔑ろにされている部分があるのです。このような不動産業界で、ITの力によるイノベーションを起こすことを目的に、2012年に創業しました。

2015年1月、「ietty」という賃貸不動産レコメンデーションプラットフォームを使ったオンライン不動産仲介が形になり、その後、自動物件提案を行うボットを取り入れました。現在はそれを発展させた形で、ボットによるちょっとした対話型の物件提案ができるようになっています。そのほか、実店舗「住まいの窓口by ietty」における対面での不動産仲介、法人様向けのサービスとして、従業員のお引っ越しの割引サービスを提供する「ietty BIZ」や、オフィス移転のご提案などを行う「ietty Office」といった不動産関係のサービスを提供しています。

沖山:私ども株式会社メドレーは、「医療に納得感をもたらしたい」という課題意識のもと、2009年に創業された会社です。最初に立ち上がった事業は医療介護の求人サイト「ジョブメドレー」で、そのほかに口コミで探せる介護施設の検索サイト「介護のほんね」、オンライン診療アプリ「CLINICS」、そして私が担当している、医師たちが作るオンライン病気事典「MEDLEY」があります。医療に関する情報は世の中に氾濫していますが、必ずしも医学的に正しい情報ばかりではありません。このため、患者さんが誤った情報を得てそれを信じてしまうと、それは患者さんにとっても、私たち医療従事者にとっても不幸なことです。

こうした情報の非対称性を少しでも改善するためには、医師自身が、一般の方向けに、正しく分かりやすい情報を発信する必要があります。しかも医療においては、常に新しい知見や技術が出てきますので、情報が随時更新されるシステムが必要です。そこで、医師としての有資格確認と本人確認を行った上で、医師が登録制で共同編集する、ウィキペディアのようなシステムとして「MEDLEY」を開発しました。

情報や人のつながりを支える機能としてのAI

大浜:病気のオンライン事典としては、どのような規模のものになっているのですか?

沖山:現在、協力してくれる医師は全国で500名を超えています。社内の医師はもちろん、こうした外部の医師にも協力してもらい、1,500の病気についての事典を作りました。ところが、実際に事典を利用する患者さんの多くは、受診する前に検索することが多く、その場合、まだ自分の病名が分かりませんから、病名による検索では求める情報にたどり着けないというケースが見られました。

そこで、症状からも情報(記事)にたどり着けるような検索システムを作ろうということで、「症状チェッカー」というサービスを、今年の春に開発しました。仕組みとしては、トップページに検索ボックスがあり、そこに利用者が自覚症状を入力すると、医師の問診プロセスをもとにした独自のアルゴリズムに基づき、追加の質問が表示されます。それに回答することで、可能性のある病気や対応する医療機関のページにたどり着くというものです。同じ病気でもある症状が出たり出なかったりすることがありますから、全ての病気記事から、「熱」「のどの痛み」といったようなキーワードの有無で検索する通常通りのキーワードマッチシステムでは、検索に限界があります。

そこで、症状同士の関連性や病気の発生頻度、年齢や性別ごとの違いなどを考慮したシステムを開発しました。例えばせきであれば、「どんなせきですか?」などと、せきに関する詳細な問いかけを表示することで、より効率的に可能性の高い病気の情報にたどり着くことができるようになっています。このシステムをもとに、より直感的に利用してもらえるよう、Facebook Messengerのチャットボットプラットフォームに対応させました。「熱があります」とつぶやくとボットが「他にこんな症状はありませんか?」と選択肢を返してくれます。利用する人からすれば、相手がボットであるという点に関して、比較的違和感を持ちづらいのではないでしょうか。

大浜:その辺りの感覚は、私たちも似ています。あくまでも、不動産仲介という1つのサービスで、人とボットが協働して仕事をしていくような世界観を目指しています。それがボットであろうと人間であろうと、お客様のお部屋探しのための質問に、きちんと答えられ、よりよい物件を紹介するという世界観ですね。

そもそも私たちはボットよりも、チャットがやりたかったのです。一説によると、全国にある街の不動産屋さんというのは、コンビニの数よりも多いといわれています。それだけの市場規模やニーズがあるにもかかわらず、不動産の世界ではオンライン化があまり進んでいません。店舗がなければ始まらないのがこれまでの不動産業であり、検索型のeコマースもないのです。

もし検索型のeコマースビジネスが成り立つのであれば、とっくにAmazonあたりがやっているでしょう(笑)。そこで私たちは「検索」になくて「店舗」にあるものは何かと考え、「接客」というキーワードに行き着きました。そして、その「接客」をオンライン化するためには、「チャット」だろう、と。そういう課題から始まり、それを解決するための手段がボットであり、あるいはAIであろうという流れです。

人間とAI、それぞれが担うべき役割

大浜:メドレーさんも私たちも、ことさらAIやボットに着目したというよりも、求める機能や仕組みを整えていくなかで、おのずとボットの導入に至ったという点は一緒ですね。

沖山:その通りだと思います。最近ある意味ブームのようにもてはやされているAIですが、例えば人工知能学会でも、まだ「人工知能」という用語に関して学術的な定義を出していません。ですから世間的には、何となく知的な振る舞いをするものはすべてAIだと呼ばれることがあります。その文脈でいえば、ボットも「会話をする」という意味で、人間をまねているわけですからAIといえるでしょうし、今後、医療という広い領域において、それなりの部分がボットあるいはAIに置き換わる、または互いを活かし合って共存していくことになるのではと思います。

大浜:AIがどこまで人の行為と置き換わるのかということについてですが、人が手がけるほうがよい部分と、逆にAIのような機械が担ったほうがよい部分というのは、まだしばらく両立して残り続けるのではないか、と感じていますね。

機械のよいところは、正確性や大量のデータをさばけるところですが、一方で人間の営みにおけるエモーショナルな部分について、AIがどの程度まで追いつけるかといえば、それはまだまだです。何気ない気遣いや心のこもった対応などは、医療でも不動産でも、人間がやっていかなければならないものですよね。

沖山:AIとエモーションという点で興味深いのは、最初期のチャットボットである「ELIZA」が、心理カウンセリングの手法を模したプログラムであったことです。「ELIZA」は1966年に作られたものですが、何しろ半世紀近く前のアルゴリズムですので、例えば患者さんが「毎日仕事がつらいです」といえば、「なぜ仕事がつらいと思うのですか?」と前の文を利用して繰り返す程度のものでした。にもかかわらず、患者さんは話を聞いてもらった後に感極まって泣きだしてしまったり、コンピューターが応答しているとは信じないといった反応をしたりしたといいます。

大浜:確かに、「ELIZA」のエピソードは、これからのAIを考える意味で示唆に富んでいますよね。実は私、元々は社会心理学を専攻していて、エンジニアになる前は、教育関連の施設でカウンセラーの仕事をしていたのです。その後、大学院に進んで気が付いたら、多変量解析を使ったAI専門のプログラマーになっていました(笑)。

沖山:カウンセリングや精神科領域、対話といった部分は、AIと関連性が深いですから、そういう意味では大浜さんのご経歴も、なるほどと思えます。

大浜:AIとの関連性というところでは、医師やカウンセラーはもちろん、例えば不動産業における営業でも、お客さまとの対話のなかでご希望する場所や環境、間取りなどをお聞きして、最適な物件を探していくというのは、本質的にはまったく同じだと思います。だからこそ、人とAI、それぞれの担うべき役割と可能性を十分に理解しておくことが重要ではないでしょうか。

<後編に続く>

■プロフィール
株式会社メドレー
http://www.medley.jp
医師 沖山翔
東京大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターでの臨床研修を経て、救命救急医、船医、離島医(石垣島・波照間島)、ドクターヘリ添乗医、DMAT(災害派遣医療チーム)隊員として勤務。東日本大震災では宮城県石巻市にて被災地医療に従事し、不足する入院施設の新規立ち上げを行う。人工知能(AI)に関心を持ち、医師でありながら人工知能学会にも所属。2015年より株式会社メドレーに参加。

株式会社ietty
https://ietty.co.jp/
執行役員CTO 技術本部長 大浜毅美
横浜国立大学教育学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科修了。日経リサーチにてシステム開発およびブログ分析サービス等の立ち上げに従事。その後、ヤフーのR&Dやグルーポン・ジャパンのBI部門マネージャーを経て、マーケティングアプリケーションズ入社。同社では、執行役員CTOとして開発チームの編成やオフショアラボ開設、新規サービスの立ち上げ等を統括。2016年4月に「ietty」に参画。

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