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人工知能の未来

富士フイルム、決意の「AI革命」が医療の未来を照らす

富士フイルム株式会社

次世代AI技術の開発拠点「Brain (s)」開設

写真フィルムの開発を通して長年培ってきた技術や知見を、医療機器や再生医療、化粧品など、さまざまな領域に応用してきた富士フイルム。2018年、同社は多岐にわたる事業領域や、挑戦し続ける企業姿勢を広く伝えるために、新たにグローバルブランディングキャンペーン「NEVER STOP」を展開。そのなかで、全社を挙げた人工知能(AI)技術の開発について言及している。

富士フイルムはこれまでにも、画像を用いた社会インフラの診断やイメージングなどの領域に、AI技術を導入してきた。これらの技術を発展させ、さらなる可能性を追求していくために、2018年10月、次世代AI技術の開発拠点・FUJIFILM Creative AI Center「Brain(s)(ブレインズ)」を東京・丸の内に開設した。

「Brain(s)」が目指すのは、“脳”に象徴される人々の叡智(brains)を、人工知能(-ai-)を軸として融合、進化させる場の創設である。そのために、理化学研究所や東京大学大学院などアカデミアとの連携をこれまで以上に強化するとともに、次世代AI・ICT人材の育成を目指す「FUJIFILM AIアカデミー」を開講する。さらに、スタートアップ企業とのコラボレーションを生み出すオープンイノベーションの実践に着手していく。これら3つの取り組みを推し進めるべく、世界最速(※2018年11月21日時点)の計算処理能力を誇る「NVIDIA DGX-2」をベースとしたディープラーニング用スーパーコンピュータを日本で初めて導入するなど、国内トップレベルの研究環境の構築を進めている。世界をリードするAI技術開発が、今まさに「Brain(s)」から始まろうとしているのだ。

医療の未来を照らす新しい光、「REiLI」

富士フイルムは、AI技術の開発を進めることで、いったいどのような新しい世界を実現しようとしているのだろうか。同社の開発担当者2名に展望を聞いた。

過去70年以上にわたり、画像処理技術を追求し続けてきた富士フイルムは、世界に先駆けて、X線画像診断をデジタル化し、医療の現場に革新をもたらしてきた。2008年には、CTやMRIによって撮影された臓器や血管などの2次元断層画像を立体画像として可視化する3D画像解析システム「SYNAPSE VINCENT」を発表。2次元の医用画像から、より精緻な立体画像を描出することを、IT事業の中核事業と位置づけてきた。

2017年、大容量データの解析処理力を向上させた「SYNAPSE VINCENT」の“第5世代”を開発。そして現在は、これまで培ってきた画像認識の技術と深層学習(ディープラーニング)を組み合わせ、医師の画像診断をさらに強力に支援するAI技術「REiLI(レイリ)」の実現を目指している。

「REiLI」は、「ヒトとAI技術の共創によって、新しい価値を生み出す」というビジョンのもとに生まれたメディカルAI技術の新たなブランドである。富士フイルムは、AI技術を画像認識の領域で活用することによって、医療の未来を明るく照らそうとしている。

富士フイルムが、こうしたチャレンジをできるのは、画像解析の技術開発にいち早く着手し、長きにわたってトップクラスの技術力と製品シェアを誇ってきた実績があるからだ。膨大な画像データにアクセスできる環境、医療現場とのネットワークがあるからこそ、同社はAI技術の新たな可能性を追求できるのだ。

AIによって、診断のスピードと効率の向上を目指す

AI技術「REiLI」で、新しい画像診断ワークフローを実現していくことで、医療の現場にどのような変革が起こるのだろうか。開発担当者は、大きく分けて3つの進展があると語る。

1. 診断スピードの向上

「AI技術を使った画像解析で、どの位置にどの臓器があるかをスピーディーに認識することができるようになります。『SYNAPSE VINCENT』はこれまでも、臓器や血管、骨や筋肉を色分けして、医師の診断を支援するシステムを提供してきました。今後のAI技術を使った画像解析では、より精度の高い情報を迅速に提示できるようになることを目指しています」

人間の体内には多くの臓器があり、そのなかには、すい臓など個人差が大きいものや、臓器自体が非常に小さく識別が難しいものもある。毎日限られた時間のなかで、見落としやミスなく診断をするうえで、病気の可能性を分かりやすく提示する画像認識技術は、医師にとって強力な診断サポートツールとなるのだ。

2. 診断・施術のレベルアップを目指して

「AI技術の導入によって、体の状態や病気の進行状況などを客観的な数値として表示できるようになれば、投与する薬の種類、量の判断もさらに適切になることが期待されます。結果として、体への負担が少なく、より効果の高い薬の投与方法を精緻に導き出せるようになり、治療効率が上がるのではないかと期待しています」

「また、AI技術で画像認識技術の精度が上がると、医師は、より詳細な手術のプランを立てられるようになります。例えば、腫瘍を取り除く場合、断層画像から可視化された3次元画像によって、周りの血管を確認、出血を最小限に抑えるためのシミュレーションが可能となります。これによって、患者さんの術後の早期回復、負担軽減が実現していくでしょう」

そして、これまではカメラが写せる範囲でしか体内の状況を把握できなかった内視鏡の腹腔(ふくくう)鏡手術においては、手術中のリアルタイムの動画と、AI技術による画像解析情報を組み合わせることで、より効果的な施術が可能となることが期待されている。

AI技術にできること、人間にしかできないこと

3. 診断報告書作成の自動化

3つ目は、AI技術を使った診断報告書作成のサポートだ。病名や現在の体の状態などを文章化、数値化することができれば、医療現場の業務負担は大幅に軽減される。これによって医師は、人間にしかできないこと、つまり、診断や、治療方法の検討、患者さんとのコミュニケーションなどに、これまで以上に多くの時間を注げるようになる。AI技術が医療現場の生産性向上に貢献し、医師の業務支援を行うことは、そのまま患者さんの健康や命を救うことにつながるのだ。

「たとえどれだけAI技術が進展しようとも、最終診断は必ず医師が行います。AI技術が診断を裏付けるデータの収集をサポートしてくれるため、重要な判断を下す医師の精神的な負担の軽減につながるというメリットもあります」

医療現場で扱われる画像数などのデータ量が増え続けている昨今、医師たちの働き方改善、精神的・物理的な負担の軽減、医療判断ミスの予防など、AI技術に寄せられる期待は、どんどん大きくなっているといえる。

最新技術と医療現場をつなぐ、オープンイノベーション

開発担当者によれば、AI技術「REiLI」の実運用は、薬事承認を取得した後、2019~2020年に急速に広がっていくという。加速度的に進むAI技術の研究開発の成果を、実際のシステムに直接的に反映させていくために、富士フイルムでは、「Brain(s)」を通して、最先端の研究開発を進めるパートナー企業との連携を強化していく。

「どんなに自信のあるシステムを開発できたとしても、新興のベンチャー企業の新製品が医療現場に導入されるケースはまれです。そうした最新テクノロジーの導入においては、医療現場とのネットワークの構築が重要です。一方、富士フイルムには、アナログのX線フィルムの時代から、長きにわたり、医療現場の声をテクノロジーに反映させてきた実績があります。さらには、X線撮影装置や内視鏡システム、超音波診断装置といった医療機器も手掛けています。テクノロジーの有効性を社内で実証でき、それを医療現場に提案できるという環境は、研究者にとって非常に恵まれたものであるといえるでしょう」

開発した技術を実際の医療現場につなぐことができる富士フイルムが、オープンイノベーションのハブになることで、AI技術の研究開発を進める学術機関や、気鋭のベンチャー企業が新たな価値の創出に挑むことができる。それぞれのテクノロジーや知見を組み合わせることによって、技術革新を加速させ、世界に先駆けた新しい価値を生み出すことができる。そうした確信があるからこそ、同社は「Brain(s)」を設立したのだ。

前例のない「未知」を歩む開発者たち

AI技術「REiLI」の始動、そしてAI技術開発拠点「Brain(s)」の設立によって、今後富士フイルムの研究開発のスピードはどんどん上がっていくだろう。それでは、同社にはどのような開発者が集まっているのだろうか。

「富士フイルムの開発者たちは、それぞれが確固たる強みを持ったプロフェッショナル集団です。そして、アカデミアとの連携や、オープンイノベーションが『Brain(s)』を通して生まれるため、常に外部の新しい情報にアクセスできる環境に身を置くことができます。こうしたオープンな場が実現することで、柔軟なアイデアが生まれ、AIの研究開発は加速度的に進んでいくと考えています」

そして、富士フイルムの開発者のなかには、自分たちが手掛けた技術が現場でどのように役立っているのかを確かめるために、自ら医療現場に話を聞きに行き、そこから得た情報をもとにシステムの開発をするメンバーが多いという。

「大企業でのソフトウエア開発においては、開発業務を細分化し外注することが多く行われています。しかしわれわれは、まだ前例のないシステムを作ろうとしているからこそ、何が正解で、何がベストなのかを確かめながら、コーディングも含めたシステム開発全体を自ら手を動かして進めています。一つずつ確かめながら、現場とすり合わせ、試行錯誤を繰り返しながら改良を重ねていくことが重要です。まだまだ解析すべきことは膨大で、やりたいことも山積しています。それでも、未知なる領域において、世界に先駆けて医療革新を進めていきたい方にとっては、非常に刺激的な環境を提供できると思います」

今後、富士フイルムから生まれていくであろう、未来の医療を照らすAI革命に期待したい。

取材・文:田中瑠子
編集:松本侃士(BizReach Frontier編集部)

(記事掲載:2018年11月21日)

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