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人工知能の未来

思考や会話を分析・数値化。認知バイアスに縛られない世界へ

コグニティ株式会社

会話を分析して数値化する

スティーブ・ジョブズはスピーチの名手として知られる。彼の話に耳を傾けていると、いつしかその巧みな話術に誰もが引き込まれてしまうのだ。そんなジョブズのスピーチを手本とする企業人は多い。

「ジョブズに似ていると言われている、ある企業の社長のスピーチを、サンプルケースとして弊社のサービス『UpSighter(アップ・サイター)』で解析したところ、とてもよく似ていたものの、1点だけ大きく異なる点がありました。それは、『自分がなぜ、これをやりたいのか、やったのか』という理由付けが欠けていること。そこから、人の心に響くスピーチにするためには『人に納得してもらえる内容を補うこと』という仮説が導き出されました」。そう語るのはコグニティ株式会社の河野理愛代表取締役だ。

コグニティが提供するサービス「UpSighter」は、スピーチやセールストーク、プレゼンテーションなど、従来、定量化できなかった「会話」の内容を分析し、数値化することで、どこを改善すればよいのかという評価を具体的に浮き彫りにすることを可能にした。

たとえば、営業でいえば、同等の経験を積み、トークスクリプトも同じであるはずなのに、売り上げに結びつけることができる営業担当と、そうではない営業担当がいる。そこで売り上げに結びつけることができる営業担当をピックアップし、そのトークを録音し、UpSighterで解析する。同様に他の営業担当のトークも分析し、両者のアセスメントレポートを比較することで、どこにどんな違いがあるのかが明確となる。そして、どこを改善すれば売り上げの高い営業担当と同等の結果を、全員が出せるようになるか、という答えが見えてくるのだ。活用の幅もかなり広く、「社員のスキル向上」「人材開発として」「営業担当1人あたりの売り上げの差を縮めたい」という要望を持った企業からのオーダーが殺到している。

「現在は積極的な営業活動はしていません。口コミや日経産業新聞に掲載された記事を読んだ方からのお問い合わせに対応するのが精一杯で、プロモーションがまったくできていない状況です」と河野氏は笑顔を見せる。

河野氏は慶應義塾大学に入学した2001年にNPO法人スポーツインキュベーションシステムを起業した。しかし、経営スキルのなさを痛感して挫折。卒業後、2005年にソニー株式会社に入社。その後、2011年に株式会社ディー・エヌ・エーに転職。2013年に2度目の起業としてコグニティを設立し、いまに至っている。

「会話を定量化し、解析する」というアイデアはスポーツインキュベーションシステム時代の事業も踏襲されている。「人の特性やセンスを定量化する」というアプローチは、勤めていたソニー株式会社の役員会にも提案したことはあったが、実現には至らなかった。いまのようにAI(人工知能)がブームになる前のことだったので、現実感がなかったのも仕方なかったのかもしれないという。その分、AIが世間から注目されているいま、コグニティにとってこの時代の流れは大きな追い風になっている。

「AIという言葉をよく耳にするようになったのはこの1、2年ですよね。2013年に会社を立ち上げたときはコグニティブ(認知)という言葉はほとんど使われていませんでした。この10年近い年月のなかで、私が考えていたことと、実現の可能性が少しずつ近づいてきた感覚があります」

誰もがジョブズになれる世界に

現在のクライアントには大塚製薬、日本総研、内閣府など、そうそうたる企業や機関名が並ぶ。他にも多くの企業から熱い視線が向けられているという。どの企業にとってもスピーチやセールストーク、プレゼンテーションの強化は最重要課題。営業をしなくとも引く手あまたというのは納得がいく。

「単純に数値化して『あなたのトークは何点です』というのではなく、いろんなパラメーターで測っています。そのために5,000本を超える日米言語のサンプルを解析することで、どういうものの評判が良いのかをデータベース化しています。その蓄積のおかげで『ここを少し変えればもっとよくなる』という結果を出せるようになりました」

UpSighterの特徴はトークを全て可視化していることにある。可視化にあたり、「CogStructure(コグストラクチャー)」と呼ばれるルールフレームワークを構築した。それが最初のアドバンテージになっているという。

「たとえば、『売り上げの様子はどうですか?』という営業の問いかけに対し、『メンテナンスセールスはよいです』という答えがあったとします。次に『BtoCの売り上げは?』と聞くと『あまりよくないです。景気が悪いから』と返答がきました。すると、売り上げというトピックに対して『メンテナンスセールスはよい』『BtoCはあまりよくない』という2つの補足が出てきたことになります。『BtoCはあまりよくない』に対しては『景気が悪いから』と理由付けをしている。でも、その理由がファクト(事実)なのかを補足していない。どんな要素がトークのなかにあって、それを補足する情報がいくつあり、それで足りているのか否なのか、そういうことを計算するためにルールフレームワーク化したことがベースにあります」

思考を見える化するルールを作っていくことをAIの領域ではナレッジ・リプレゼンテーションと呼ぶが、この領域は50年間にわたって商用向けでの進歩がなかったという。AIではアルゴリズムを作ることにばかりに注力されていたのだ。

AIは自然データをセンシングして認識し、それが何かを判別してアルゴリズムで分析して最終的にデータ化する。しかし、コグニティではセンシングや音声認識、画像処理はオープンになっている技術を活用し、人の認知や思考のパターンの種類と組み合わせて活用している。UpSighterの技術は海外の学会でも発表され、日米欧で特許審査中となっている。

「私たちの強みは独自のルールフレームワークとデータベースを保有していること。技術面に関してはすべて自前で準備するのではなく、オープンになっているさまざまな技術を取り入れているため、いわゆるAIの本流とは言えませんが、広い意味でのAIとして評価していただいています」と河野氏。

データベースの構築は、人の力によって行われている。たとえばある意見があったとして、それは賛成意見だと思ったのか、それとも反対意見だと思ったのかなどの人間の判断思考も、創業した4年前からデータとして蓄積してきた。機械では判別できない人間ならではの思考をアルゴリズムに変換することで、精度の高い意思判断、汎用(はんよう)性の高いものを作り上げた。

「人の判断を蓄積するという点にはこだわっており、意思判断や思考のデータ化には60人ものスタッフが関わっています。AIに人間の思考性を加えることで、アウトプットされるデータに感情まで含めているんです。無機質な結果測定ではなく、人間らしさを含ませている、と言うべきでしょうか」

AIをボトムアップに活用する

最近、文部科学省での導入があったが、ここでも評価は非常に高かったという。

「文部科学省が開く会議には、専門家を交えた審議会があるのですが、キャリア官僚の方々は専門家ではないので、専門家からの提言をどうまとめればよいのか、そのために次回の会議にはどんな資料を用意したらよいのか、毎回時間をかけているそうです。そこで情報の抜け漏れチェックなどにUpSighterを使えるということでした」

議事録から使われている単語の数を測るのではなく、「この事例が多い」「この回答が不足している」などがUpSighterによって分析される。その結果を基に次回の会議の準備をすれば、会議はいままで以上にスムーズに運ぶ。政府機関ならずとも企業でも活用できる。

「従来、莫大な資金を投下し、コンサルタントを入れて人海戦術でやっていたような、定量的に分析した結果がアウトプットされるので、当事者が状況を把握しやすくなります。結果、トップの方が意思決定を下しやすくなる。方針を作る時間削減もできることに高い好感を持っていただいています」

また、カスタマイズにも対応しており、OEMでの提供も実施している。たとえば、携帯ショップからは、「たくさんの情報は不要でピンポイントの情報だけを把握したい」というオーダーがあった。そのため、販売における売り上げ上位のショップ店員のセールストークを分析し、平均値との違いだけを導き出す指標を作成したという。「あなたは100点満点中、71点です。足りない点は『ムダな話がやや多い』『ヒアリングが不足している』です。そのための解決策は……」という簡単な3ステップを伝え、次回のセールスに活用できるものにしたという。数値化と測定に強みを発揮するUpSighterだが、河野氏は人にスコアをつけて評価することがゴールではないと語る。

「私たちは組織のボトムアップに活用していただきたいと思っています。『あなたはダメです』ではなく、全員ができるようになることを目指しています。成績トップの営業担当が持つナレッジや特徴を、全員に水平展開する。セールストークの良しあしを判断したいのではなく、全員が成績上位者のスキルを身につけることができるようになる。それをまた改善し、展開するという繰り返しによって、良いスパイラルが起きていく。それがUpSighterの目指す世界です」

しかも、UpSighterは多言語にも対応できるため、国内だけでなく、海外の市場も視野に入れている。テストバージョンのリリース当初も、9割が海外ユーザーだったという。「数値化する、論理性を持つ、説得することができるUpSighterに対する反応は、日本のユーザーより海外の方が良かったです。今後は、日本国内だけでなく、アメリカやUKの巨大なマーケットをターゲットに展開していきます」

「空気を読む」を定量化する未来を目指して

コグニティはより高度なセンサリング技術を活用し、よりチャレンジングな取り組みも始めようとしている。それは「空気を読む」プロジェクトだ。

たとえば営業担当にセンサーデバイスを装着してもらい、商談中どこでうなずいたのか、そのうなずきは何度あったのかを計測する。そんな接客パフォーマンス分析データもUpSighterに取り入れていく、というのだ。

IoTとAIを組み合わせた取り組みはすでに大手の飲食チェーン、出版社、教育事業者、コンサルティング企業など、約10社と合意に至っており、実証実験がスタートしている。今後は、ビジネスユースだけではなく、もっと広い分野で人間の意思決定をサポートすることにも挑戦していくという。

「将来的にはさまざまな意思決定において、テクノロジーが認知バイアスを取り除くことで、フェアな判断をするための支援をしていきたいと思っています。私が目指しているのは、テクノロジーが人に取って代わることではありません。機械が得意とするフラットな判断は、機械に任せる。そして、人間は効率化して、フロンティアを作ることにまい進する。そんな世界を作りたいと思っています」

もちろん前例のないチャレンジになるため、平たんな道ではないだろう、と河野氏は言う。しかし、自分が思いつく限り難しいことを会社のゴールにしたと語る。河野氏が描きたかった世界に時代がたどり着きつつある。これからは時代を作ることが河野氏の使命となるようだ。

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